ケース4−1 華菜の場合
苦しくて、息ができなくて……おぼれそう。こんなキスは、初めて。
唇が離れて、酸素を求めて口を開いても、またすぐ噛み付くみたいに駿兄の唇が覆い被さる。頭が両手でしっかりと上を向かされて口の中に私のなのか駿兄のなのかわからないけど、たくさん唾液が溜まる。でも、飲んだら音がしそう。
ううん。音は聞こえる。
駿兄の息の音。唇がくっついて離れて、またくっつく時、駿兄の顔が動くときに聞こえる粘着質な音。
立っている足にどんどん力が入らなくなっていく。
「くっ……は……ん、んー」
だめ。もう耐えらんない。つば、飲まないと……
「っごほっ はぅ げ……っほ……」
気管に、気管に、気管にっー!!
無意識の力で、頭を掴んでた駿兄の手を振り解いて、結局立っていられなくてその場にしゃがみこんでひたすら咳き込む。
「ごめっ な……さい……ちょっと、息がっ」
喉を通る空気がかひかひ音を立てる。それでもすぐに、何とか普通に息ができるようになって。でも、顔があげらんないよぅ
「悪い。意識飛んで気が回んなかった。大丈夫?……じゃないな」
背中をなでながらそう言って、乱れた髪が手櫛で背中に払われていく。
くいっとあごに大きな手が触れて、顔が引き上げられる。どんな顔していいのか、駿兄がどんな顔してるのか見るのが怖くて、目を瞑った。
その拍子に飲み込めなかった唾液が少し、口の端から流れて落ちるのが、すごいやらしい。
「ん……」
自分でぬぐおうとしてあげた手が、あごにかかった方とは違う手で止められる。
「や……」
つたう唾液を追うように、駿兄の唇が、私の唇の端から、あごに、這う。
あごに添えられた手は、知らないうちに耳の下に移動して、首を捕らえる。あごにたどり着いた唇がそのまま喉へ。
「ひゃ……んく」
外からの刺激に、思わず口の中にまた溜まりつつあった自分の唾液を飲み込んでしまう。さっきと違って、本当に静かになった脱衣所に、ごくり、という音がやけに大きく響く。
恥ずかしくて、顔を戻したくても、そのまま喉にしつこいくらい繰り返されるキス。柔らかい舌が這う感触。
手を上げようにも両手はいともあっさり駿兄の片手で押さえられて、身動き取れない。
逃れようと反り返ったら、かえって攻撃範囲が広がっちゃって、文字通り自分で自分の首絞めてるわ。
首から離れて、耳。
息がかかるだけで、勝手にからだがびくりと動く。
耳から、まぶた、おでこ。軽いキス。顔が少し離れたのに、被さる影が動かなくて、そっと目を開けたら逆光の中で、駿兄の瞳が微笑んでるのがわかる。
どきどきして、息もつけなくて、体に力が入らなくて。
でも、これまで生きてきた中で、すごく幸せ。
大きな両手が頬をなでて髪をなでてくれる。
自由になった手で、同じように駿兄の顔に触れる。
どちらからともなくクスクス笑ってから私たちはまたキスを繰り返した。
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