ケース4−4 華菜の場合
もーだめ。
恥ずかしすぎて死んじゃうかも。
だってもう、服はがされちゃったのよ? 布団もなくなったし。自分のせいだけど。
信じらんない。もうほとんど、下着一枚じゃない。駿兄は全部着てるくせにさ。ずるいとか思うけど言ったら絶対脱ぐからもうこれ以上墓穴掘れない。
目を閉じて見ないようにしても、駿兄がどこを見ているのか判る。ぴんと腕が上に伸びきって掴まれたままびくともしない。マンガに出てくる焼かれる前の獲物みたい。
早く終わってほしいって気持ちと、もっとこのまま居たいって気持ちと、ごちゃごちゃになってどっちがホントなのか自分で自分が判らない。
でも、こう、じーっと見られてるのは怖くてダメ。次に何をされるのかって思うと、逃げたいくらい気持ちが追い詰められる。
不意に、手を引き上げる力が弛んでほどける。まあもう今更って気もしないでもないけど、胸を隠す。うう。自分で触ってもまっ平……寂しすぎる……やっぱり寄せる肉もないAカップじゃ仰向けになったら全然ないじゃん……
さらりと、長い指が耳にふれる。息がかかる。
耳はだめだってば。くすぐったいのになんか変な感じになるの。
体に力が入る。どうにか変にならないようにするために。
「華菜」
名前を呼ばれるだけで胸の奥が痛くなる。
ぎゅって。
「好きだよ」
んっ!!!
わ。がつって、心臓じゃないどこか。心がどこにあるかなんて判らないけど、普通にしてたらそこにあることさえ気付かない場所が反応する。
キスしてるときも、キスされてるときも、体中触られてるときもずっと心臓とは別にどきどきしてる場所。
痛いのに切ないのに、苦しいのに、嫌じゃない。
「ひっきょーぅ……なんでこんなことしながらそんなこと言うのー?」
体の力が一気に抜けた。立ってたらそのまま座り込むくらいの脱力感。きっと顔もすごく間抜けなくらいほけーっとしてる。
「今言いたかったから。もっと言ってほしい?」
ものすごく嬉しそうな顔をしながら駿兄が私の顔を覗き込んできた。聞きたいけど連続攻撃を受けたらふにゃふにゃになっちゃいそうで、答えられなくてただ首を振る。
振動で、いつのまにか溜まった涙が一粒横に伝うのがわかる。
すかさず駿兄が唇でそれをすくいとった。
「ん」
ついでにまぶたやおでこに鼻の頭、唇にキスが降りてくる。
「好きじゃなかったらこんなことしないよ」
うー……判ってるけど。私だって好きじゃなきゃこんなことしないけど、でもなーんか、ごまかされてる気がするんだよね。
キスをするのは好き。
くっついてるのも好き。
触られるのも、まあ、嫌じゃない。
でもそれを正直に伝えたらなんかすごくえっちくさい女の子だと思われそうで絶対言えない。
声だって、出していいって言われても、時々自分のじゃないみたいにいやらしく聞こえてどうにも素直に出せない。
「ひゃっ!?」
って!!!
内腿っ 足っ なななっ なんかすごいヤラしーい触り方されてるんですけど。
自分の体がそんなに柔らかかったのかってくらい体勢不自然っ!! 右足は持ち上げられて、左足はひざから下が駿兄の足でしっかり固定されてて動かない。
そんな状態だから、当然足開いてるわけで。
「やめっ!! 足降ろして離してっ!!」
「だめ」
そんなきっぱり……
胸隠してる場合じゃないよ。両手をついて、起き上がろうとすると、左足から重さが消える。よっしゃあ!起きあがるわよっ……え? わ、ちょッ……
「きゃっ!! ぷ」
あっという間に左足も掴まれて、引っ張られたらおしまい。ベッドに逆戻りかと思ったら、大きな手が背中に回ってきてそのままあぐらをかいた上にすっぽりはめ込まれ、大きな胸にしがみつかなくちゃならなかった。しかもっ両足で駿兄の体跨ぐみたいになってるの。良く考えなくてもすっごくやばいよ。この体勢……なんか、下の方……えと。ふれないことにしよう。
立って四十センチ近い差。座って半分になったとしても約二十センチの差。ひざに乗ってる分差し引いて顔を上げたら測ったみたいにいいポジションで駿兄の顔がある。
いつもの優しい笑顔。でもなんか、今すごくむかしのうたが頭の中で流れ出したの。サビばっかり。
う、うたったら気がそれるかしら?
お互いの体の間で非常に所在のない手は、毎度のごとく駿兄の首に回される。この体勢好みですか?
上がった両手の下から裸の背中に回されるあったかい大きな手。
「寒くない?」
「ん……そんなには……駿兄?」
するすると手が下の方に降りていく。
「なに?」
「え、なにって、手……」
……が、入ってんですけど。しかも顔色一つ変えずに。
逃げようにもどうにもならないの。下手に身動きしたらさらに自分を悪い状況に追い込むこと間違いない、予感。自信あるわ。
に、してもそのままされるままってのもなんかいやー
手の侵入を阻もうとして腰を落したら、当たってアレだし、腰をあげたら敵の思う壺って状態。駿兄の体が邪魔で足が閉じられないんだからもうやりたい放題されてる感じ。
「いやッだっ……やめ……あぅッ つ……」
長い指が手探りするように動き回る。粘着質な音が聞こえる。必死で首にしがみついてもうなにも見ないでおく。すごく恥ずかしい顔してる、きっと。見られながらじゃなくてホント良かった。
しばらくそのまま声をあげそうになるのをなんとか押さえながら我慢してると、強弱をつけながら行ったり来たりしてたのが、くいって指が引っかかる。そのまま、入ってくる。
「いった!!! 痛いっ!! やめてっ!!」
いきなりとんでもなくあーもう、ホントにそれまでと全然違うの。めちゃめちゃ痛くて涙出てきた。
ただもんじゃない痛いってば。
「うー」
ぼろぼろ泣けてくる。今日って涙腺の厄日? 泣いてばっかりじゃない。
「ごめん、華菜、大丈夫?」
「だめ。まだ痛い。死んじゃう」
「いや、俺もかなり痛いんだけど。死んじゃう前に頼むから足の位置変えて」
痛くて気付かないうちに駿兄のひざの上に登っちゃって、私のひざが駿兄の腿に食い込んでいる。
……ゴメンナサイ……
足をずらそうとしても、少し動いただけでなんかズキズキする。
下を向いたら必然的に今までどうにか無視してきたモノが目に入る。
無理。絶対無理。これ以上無理。悪いけど絶対はいんない。どのくらいか大きさ見たわけじゃないけど、無理だともう。うん。
でもこのまま寝てはくれないだろうな。いや、眠くはないけど。
えへーっと笑うと、駿兄もにーって顔。だめか。もうこのごまかしは効かないっぽい。
二人で無意味に笑いあう。
だめだわ。ここら辺でなんとかしないと。あんな痛いのはもう絶対やだし。
どうやって切り抜けようか……
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